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Department of Earth and Space Science Osaka University Theoretical Astrophysics Group

学生の皆さんへFor Students

以下は我々のグループで研究したいと考えている人や、より一般に大学院進学を考えている人あるいは大学院に進学した学生を対象として、私が学生に期待する大学院生活の心構えを書いています。私自身がまだ未熟なのにも関わらず、説教臭い上に長いですしあえて強めの口調で書いています(これでも実は不十分だと感じています)。これはあくまで私個人の期待であり、我々のグループで共通した見解ではありません。これを全て満たさなければ駄目(あるいは満たせば良い)というものではありませんが、進路を考える参考にして頂ければと思います。

研究者になる気はないが大学院には行きたい、または迷っている学生の皆さんへ

研究者になるだけが人生ではありませんし、研究者を養成することだけが大学院の目的ではありません。大学院で学んだことを直接的に将来使わずとも何らかの形で社会に貢献できる人材を輩出するのは我々の責務であり、目標を持って勉学に励む学生の皆さんに我々は支援を惜しみません。進路についてもできる限り相談に乗ります(私は普通の就職活動というものをしたことがないので的確な助言ができるかどうかは保証しませんが)。

しかし、大学院(あるいは大学)を就職活動のための期間あるいはモラトリアムの延長であると考えているならば、悪いことは言わないので大学院に行くのはやめてください。大学・大学院というのは義務教育ではなく、高等技術・知識を持つプロフェッショナルを養成する過程です。自主的に勉強したい人に対して機会と支援を提供するのが大学・大学院です。「勉強させられている」「モチベーションが与えられない」「やりがいがない」と思っている人は即刻その考えを改めるか退学届を書くべきです。就職活動に有利だから、まだ学生でいたいから、などの半端な気持ちで大学院に進学すればきっと痛い目に会います。会わせます。我々のグループでは大学院修了に必要なレベルに達しないと判断すればたとえ就職の内定を得ていても卒業を認めません。中途半端な気持ちで進学すれば自分自身と教員を含む周囲の人間を不幸にします。自分が何故大学院に進むのか、自分が何を学びたいのか、目標をはっきりさせてから進学してください。そしてもし進学するならば全力をもって勉学と研究に取り組んでください。

研究者志望の学生の皆さんへ

研究者になる厳しさ 研究者になるには非常に厳しい競争に勝ち残らなければなりません。5年間大学院で学んで博士号を取得してもそれはスタートラインに過ぎません。その後まずいわゆるポスドク(Post-doctoral fellow、博士研究員)と呼ばれる多くの場合任期付きの職を2-3回渡り歩き、競争に勝ち残れば大学あるいは研究機関の助教になることができます。ここまでに典型的に5-8年程度かかりますし、国立大学の助教の競争倍率は数十倍から百倍を超えることもあります。優秀な能力を持った人が全力を尽くしても必ず安定した職が得られるとは限らない、それが研究職の厳しい社会です。リスクを承知で自分の能力を試したい、自分が好きだからやりたいという強い意志は研究者になるのに不可欠です。厳しいことを言うようですがこの程度の脅しに怯むようでは適性がないということです。なれたらなりたい、迷っている、等の甘えた気持ちではまず将来不幸になるので覚悟を決めて真剣に取り組んでください。しかし一方で自分には研究しかないという思い込みは非常に危険です。人生はおそらく一度しかありませんし、研究以外の選択肢の中には実は研究よりも適したものが存在する可能性は高いです。思いつめ過ぎず人生を健康に幸せに生きることを忘れないでください。

研究者に必要な能力 研究者になりたいという意思や、物理・宇宙が好きというのは十分条件ではありません。博士号や修士号は研究の成果と能力を証明する国際的な資格であって、努力賞として与えられるものではないのです(まともに運転できない人が努力だけで運転免許を取得できたらどうなるか想像してみて下さい)。厳しい競争に勝ち抜くためには(運やタイミングも含めて)卓越した能力が必要です。特に宇宙物理では論理的思考能力や高度な数学と物理学、コンピュータに関する知識、英語力に加えてコミュニケーション能力が必須です。これらに対する苦手意識があるならば早急に克服してください。大学院入試に合格してもそれは十分な能力があることの保証ではありません。むしろそれは始まりに過ぎないので、その後の研究に必要なことを習得する努力を怠らないでください。特に研究に対する憧れがある人程現実の泥臭い数学や物理やプログラミングに対して幻滅することが多いです。ですが現実を直視してください。研究というのはそういうもので、それができないならばどれだけ好きであっても適性がないということです。またよく言う話ですが研究と勉強は違います。勉強ができるからと言って研究者としての適性が高いとは限りませんし、そのような人を私はたくさん見てきました。一方で勉強はできないけど研究はできるというケースを私はほとんど知りません。できないことは少ない方が、できることは多い方がいいのは当たり前のことです。自分の価値を高める努力を怠らないでください。

研究者の非常に厳しい世界で生き残るには常に最善を尽くさなければなりません。全力で取り組んだとしても全員が幸せになれないのがこの世界です。「このくらいでいい」という甘えは捨ててください。教員の要求が厳しすぎると思うこともあるでしょうが、実は多くの場合教員の要求は最低限のものでそれを全てこなしたからと言って研究者になれるわけではありません。むしろ言われたことはできて当然でそれを自主的に超えることができなければ生き残れないと思ってください。口を開けて座っていれば餌が与えられるのは高校まで(本来は義務教育まで)で、大学・大学院では自立性と自律性が求められます。残念ながら指導教員を含む多くの人々は学生や学生の研究を無条件には重要なものだと考えてくれないので、自分の力で価値があると説得する必要があります。指導教員への依存心は捨ててください。ましてや指導教員を神と崇拝してはいけません(一般の社会人としての礼節は当然必要ですが)。むしろ指導教員は最初の超えるべき壁です。ある分野で博士号を取るということは、原理的にはその瞬間その分野において最も進んで最も深く理解していることが求められます。即ち少なくとも博士論文のテーマについては指導教官を超えなければならないのです。教員やポスドク・先輩を超えてもなんの罰則もありませんし、むしろ超えられるような人でなければ生き残るのは難しいのがこの業界の現実です。常に上を目指すことを忘れないでください。

自己責任論 どれくらいできれば将来優れた研究者になれるか、誰も保証することはできません。これくらい優秀なら多分大丈夫だろうという判断はある程度はできるのですが、それでも将来良い職に就けるかどうかまで責任を持つことはできません。「君なら絶対大丈夫」などという人がいればそれは無責任な発言かあるいは勇気づけるためにあえてそう言っているかです。逆に「無理だからやめておけ」と言ってくれればいいのですが、多くの教員はこの発言がハラスメントになることを恐れて直接的な発言を避け、精々言外に匂わせる程度が関の山です。私は怖くてできません。私にできるのはリスクを十分に説明した上でこの仕事のやりがいや意義を語ること、必要なアドバイスと指導を提供することくらいです。それを元に最終的な判断をするのは各自の責任であると理解してください。

研究テーマ指導教員・研究室の選び方

大学院に進学するのにあたって指導教員や研究室、そしてテーマの選び方はその後の一生を左右する重要な問題です。まず第一に漫然と今自分がいる大学に進学したり、入試の難易度だけで大学院を選択するのは絶対にやめてください。研究者のキャリアにおいて自分の進路を選択できる外的なチャンスは数える程しかありません。大学院への進学、博士課程への進学はその数少ない機会です。自分がどういう研究者になりたいのかよく考えた上で情報収集をしてください。

まず自分が何をやりたいか、テーマを決めることは重要です。自分が面白いと思うことを追求することは重要ですが、ここではあえて注意をしておきます。まず、学生の視野に映る「面白い研究」はしばしば「終わった話」で、現在の最先端で重要な研究かどうかは良く見極める必要があります。また仮に今流行しているテーマであっても、その分野に将来性があるかどうかも考えなければなりません。これから少なくとも博士号を取るまでの5年と更にそこから数年、合わせて10年程度の先くらいまでの将来性を考えるべきです。もちろんこれは一般には容易ではありませんが、天文学・宇宙物理学ではある程度可能です。この分野は理論研究であっても観測によって駆動されているので、数年後にどのような新しい観測計画が実施されるかを見れば数年後にどのような研究が重要になるかをある程度予想することができます。教科書やネットでの情報収集も必要ですが、実際に現場で働いている人がその分野についてどう考えているかを聞いてみるのも良いでしょう。長期的視野を持って自分がどのように研究を行うか戦略を考えることをお勧めします。

教員や研究室についての情報収集は学生には非常に困難なようで、事前にちゃんと情報を得ずに決めてしまうことを私は強く危惧しています。ネットで検索すれば有名な教授がでてきますし、テレビや本で見た話が面白かった教員につきたいと思うかもしれませんが、はっきり言えば危険です。有名な先生が教育能力が高いとは限りませんし、むしろ忙しくて放置されるケースも多いです。研究グループのWebページを見ても、直接面談をしても、口先だけではいくらでも綺麗事を言うことができます。むしろ綺麗事をいう人程警戒すべきです。上に述べたように自主的にやれる学生ならばどんな環境でも問題はないはずですが、現実問題としてはやはり適切な指導ができる指導者は必要です。大学院の教育は個別指導または少人数指導に近く個人間の相性に依存する面も強いのでどのような指導教員が適しているかは一概には言えません。ただ、地雷を踏まないための技術は必要なので以下にそのポイントを述べます。

グループの雰囲気、学生・部下・業界人の意見 研究室を選ぶ前に是非その研究室の学生やポスドクに話を聞いてみてください。また他の教員(特に直接的利害関係のない人)にそのグループのことを聞いてみるのも良いでしょう。言い辛いことをはっきりいってくれるかどうかはわかりませんが、もしそのグループに入るとすれば同僚になるわけですから、一度話をしてみて一緒に仕事をする自分を想像してみてください。
研究・指導の実績 その人のこれまでの業績をADSで調べてみましょう。最近その人はアクティビティがあるでしょうか。どのような研究のネットワークを持っているでしょうか。指導した学生は論文を出しているでしょうか。これまでの業績の引用数も重要な指標です。論文数や引用数は分野や研究スタイルによって大きく異なるので単純比較はできませんが、研究・指導の実績を客観的なデータに基づいて判断すべきです。現役で手を動かしている人の方が業界の事情や研究の勘では優れていると期待できますが、一方で指導教員としての実績も重要です。
出身者の数・進路 多くのグループでは卒業した学生の進路がWebページなどで公開されています。どれくらいの人が研究者として業界に残っているでしょうか。特にそのうち大学教員や学術振興会特別研究員などの良い身分を獲得した人がどれくらいいるでしょうか。どのくらいの人が研究職を志望するかは大学によって違うので単純に数字だけを見てもわかりませんが、参考にはなります。
研究の戦略 その人・グループの研究の戦略に一貫性はあるでしょうか。今後その分野で動くプロジェクトとの関係や、将来についての見通しはあるでしょうか。自分の将来の研究との関係を想像して自分のやりたいことと一致するかどうか考えてみてください。

我々のグループへの進学を希望していない方でも必要なら私の視点からの助言は提供します。気軽に相談してください。

できるだけ早く身に着けておくべき能力・習慣

物理学や数学の能力に加えて私が学生に期待する研究に必要な能力や習慣をいくらか具体的に以下に列挙します。以下を可能なら大学院入学までに始めて欲しいですし、遅くともM2でできるようになっていないとその後の研究生活に支障があります。過剰な要求と思われるかもしれませんが、当然できなければならないことしか書いていませんし、これができれば十分というものでもありません。

健康・自己管理 まず第一に研究者も体が資本です。心身ともに健康でなければ何もできません。大学院生は一人前の大人のはずですから体調には気をつけて自己管理するようにしてください。研究者は40年近く続けなければならない仕事なので、不調があれば無理をせずに療養し長く続けられるようにしましょう。研究者になるのは厳しい道ですから楽しいことばかりとは限りませんし、時には挫折することもあるでしょう。怒られることは誰にとっても楽しいことではありませんが、若いうちは怒られることは避けられないと思っておいた方が良いですし皆そのような経験を通じて成長するものです。これは人によって大きく違いますしもちろん楽しく過ごせるならそれはそれで良いのですが、辛いことがあっても必要以上に精神を病むことのないよう自分なりの折り合いが付けられることも必要な能力です。
論理力・国語力 研究は単に物理や数学だけで完結するものではありません。特に宇宙物理学は応用物理であり、問題を解決するには様々な理論や観測事実に基づいて一本の筋道を作ることが求められます。個々のトピックを理解するだけでなくそれらをつなぎ合わせて大局的な描像を作り出すこと、それに基づいて研究の方針を立てる能力が必要です。プロとして研究するということは啓蒙書に書かれているようなお話として理解するのでは不十分で、きちんと数学・物理と論理に基づいて正確に物事を理解しなくてはなりません。またセミナーや研究発表では自分の理解をわかりやすく説明するために明快な論理を構築しなければなりません。文章を書く機会も多いので理系の職業ではありますが高い国語能力が求められます。
研究倫理 大きな事件もあったので学生の皆さんでも御存知でしょうが、研究の倫理が最近大きな問題になっています。剽窃・捏造をしないというのは当たり前のことですが、それに加えて先行研究を適切に引用したり、研究上関係したしかるべき人に謝辞を書く、研究費を適切に使用する、共著者を適切に選ぶ等も重要な責任です。当たり前のことのはずですが今一度確認してください。それからお世話になったらお礼を言う、期日や時間は守る、周囲に迷惑をかけない、職責に応じた社会的責任を果たす等の一般的常識も身に着けて下さい。
社交性 研究者は自分の研究だけしていれば良い仕事ではありませんし、研究は一人でやるものではありません。まず毎日研究室に来て同僚と話す時間を大切にしてください。周囲との議論の中から新しい考えが生まれることはしばしばありますし、精神的な健康の維持にも役立ちます。研究会では同分野・他分野の研究者と積極的に交流することが必要ですし、発表の内容に対して適切に質問・議論をすることが求められます。特に「自分はコミュニケーションが苦手なので一般企業は無理、研究者になるしかない」という考えは致命的なまでの大きな勘違いです。
論文を読む習慣 天文業界ではarXivというWebサイトに新しい論文が平日は毎日、日によっては100本近く掲載されます。これはいわば新聞のようなものであり、スポーツ選手でいうところの基礎体力の訓練です。最新の情報に常にアンテナを張るとともに英語の論文を要領よく読む習慣をつけてください。毎日少なくともタイトルには全て目を通し、自分の興味ある分野や重要そうな論文はアブストラクトまで読み、その中で本当に重要と思われるものは全文を(少なくとも結論と図を)読んでください。分野にもよりますが週何本かは印刷して読むべき論文があるはずです。ないこともありますが、なければ他の分野の論文に手を広げれば良いのです。自分の世界を自分で制限せずにできるだけ幅広い知識を貪欲に吸収してください。 また自分の研究に関係する論文を自分で探す習慣をつけてください。天文関係の分野の論文はほぼ全てADSで検索できます。現代の研究は半ば情報戦です。世の中に溢れ返るほどの論文の中から有用なものを要領よく探し出し、必要な情報を必要な時に見つけられるようにしてください。
英語 研究の世界言語は英語なので、英語ができなければ研究の大きな足かせになります。少なくとも教科書や論文を読み書きするのに支障のないレベルの英語は必須です。上のarXivの例で言えばアブストラクトを読むところまでで30分を切るのが望ましいです。辞書を引いて単語の直訳を並べるだけではなくきちんと意味の通る文章を読み書きできるよう訓練し、英語の読解にとらわれて肝心の科学的理解にまで及ばないということがないようにしてください。会話については将来的に研究者になるには必須ですが、どちらがより緊急性が高いかと言えば読み書きです。ですが学生のうちから国際会議での発表が求められるので、普段から意識して練習をして苦手意識があるなら早めに克服する努力をしてください。周囲の英語レベルを見て安心してはいけません。日本の英語教育のレベルは低く実用に耐えません(特に大学レベルの英語教育は明らかに不十分です)し、教員の多くも恥ずかしいから喋らないで欲しいレベルの英語しかできません。最近は多くの大学で学生向けの英会話の機会を提供していますし、必要なら英語教室に通うなど自身で必要な対策をして下さい。なお我々のグループではセミナーやグループミーティングは英語で行っています。
コンピュータ・プログラミング 今日の研究では観測でも理論でも、シミュレーションを専門としなくてもデータ解析や計算のためにある程度のコンピュータの利用、特にプログラミングは避けては通れません。OSなどは問いませんが何らかのシステムで任意にファイル操作ができる程度にはコンピュータの操作を習得しておいてください。数値シミュレーションを専門としなくても、簡単な数値計算やファイルの処理に便利なので所謂軽量プログラミング言語(Python, Perl, Ruby等)の中から何か一つ習得することを強くお勧めします。これまで経験がないならば(私は古い人間なのでPerlですが)利用者が多く情報やパッケージが充実しているPythonをお勧めしておきます。それに加えて、数値シミュレーションを用いた研究をするならば大規模計算に用いられるC/C++またはFortranのどちらかを習得してください。これから学ぶならC/C++をお勧めします。言語の仕様をすべて把握する必要はなくやりたい計算に必要なことができれば十分です。また何か一つの言語を習得しておけば他の言語にも応用は効きます。
プロ意識・向上心 繰り返しになりますが大学院とはプロフェッショナルを養成する過程です。学生だからまだできなくて良い、これくらいでいいという妥協は唾棄すべきものです。例えばプロのスポーツ選手を目指す若者(甲子園を目指す高校生を思い出してください)は少しでも上を、可能ならば現役のプロをも上回ることを目指して日々練習しているはずです。研究者も同じです。自分で限界を設定した瞬間にそれ以上は伸びなくなります。自分の周囲の人と競争し高め合うことは大変良いことですが、一方で周囲を見て安心・油断したり足を引っ張り合ったりすることはやめて下さい。常に上を目指して、自立・自律したプロフェッショナルとして何が求められるのか考えて行動するよう心掛けてください。